プロの美容師として多くのお客様の節目に立ち会ってきましたが、葬儀のためのヘアセットは最も気を遣う仕事の1つです。結婚式のような華やかさを演出するスタイルとは正反対の「存在感を消し、場に馴染む」ための技術が求められるからです。お客様から葬儀用のセットを依頼された際、私が最も重視するのは清潔感と持続性です。葬儀は長時間に及ぶことが多く、また、焼香の際の深いお辞儀や座礼など、髪が乱れやすい動作が頻繁に行われます。そのため、見た目は柔らかく見えても、内側ではしっかりと固定されていることが重要です。プロの視点から言えば、葬儀のまとめ髪で失敗しやすいのは、崩れるのを恐れてスプレーを使いすぎてしまい、髪がテカテカと光ってしまうことです。弔事では光るものは厳禁ですので、マットな質感のワックスをベースに使い、仕上げのスプレーは遠くから薄く振りかけるのが正解です。また、最近の流行である「ゆるふわ」や「後れ毛」は、葬儀の場では絶対に避けるべきです。それらは「だらしなさ」や「おしゃれへの過度な執着」と捉えられかねず、特にご年配の参列者や親族の方々には厳しい目で見られることもあります。耳を隠すように低めにまとめ、襟足もスッキリと上げることで、喪服の襟元が美しく見え、全体として凛とした美しさが生まれます。ショートヘアのお客様であっても、サイドを耳にかけてボリュームを抑えるだけで、一気に弔事らしい落ち着きが出ます。お話を伺っていると、急なことでパニックになっているお客様も多いですが、私たちは髪を整えることを通じて、その方の心を落ち着かせ、故人様を送り出すための覚悟をお手伝いしていると感じています。まとめ髪は、単なる外見の装いではなく、自分の感情をコントロールし、遺族に寄り添うための精神的な鎧のような役割も果たします。だからこそ、私たち美容師は、流行を追うのではなく、時代が変わっても変わらない伝統的なマナーに基づいたスタイルを提案し続けています。もし自分でのセットに不安がある場合は、ぜひプロを頼ってください。鏡を見たときに、静かで端正な自分を確認できることは、悲しみの場において1つの大きな心の支えになるはずです。
美容師が語る葬儀でのまとめ髪の重要性