呉服店を営んで30年になりますが、最近は葬儀で着物を着る方が減っていると感じる一方で、いざという時のためにしっかりとした喪服を揃えたいという相談も根強くあります。喪服としての着物選びで最も大切なのは、その品質と家紋への理解です。一般的に女性の正喪服とされるのは黒無地の五つ紋です。この紋は、背中に1つ、両袖の後ろに1つずつ、そして両胸に1つずつの計5つに入れるのが最も格が高いとされています。紋の入れ方には染め抜きや縫い紋などがありますが、葬儀の場では最も正式な染め抜きの日向紋を選びます。家紋は家系を象徴する大切なものですから、必ずご自身の婚家や実家の紋を確認しておくことが必要です。生地に関しては、一越縮緬や羽二重といった高級な絹織物が使われます。安価なポリエステル素材も普及していますが、やはり絹が持つしなやかさと深い黒色は、場を清めるような独特の重厚感があります。特に黒の深さはランクによって異なり、上質なものほど光を吸い込むような漆黒の美しさがあります。次に帯ですが、これも黒無地で、織りの文様も控えめなものを選びます。最近では喪服をレンタルで済ませる方も多いですが、もし一生ものとして1着作るのであれば、ご自身の体型に合わせて仕立てることを強くお勧めします。既製品ではどうしても袖丈や身幅が合わず、着崩れの原因になりやすいからです。また、喪服は一生のうちに何度も着るものではありませんが、それゆえに保管方法が非常に重要です。正絹の着物は湿気を嫌いますので、年に1回から2回は虫干しを行い、風を通す必要があります。カビや変色を防ぐためには、桐の箪笥に保管するのが理想的です。小物の選び方についてもアドバイスさせていただきます。草履やバッグは、布製や合皮のマットな黒を選び、エナメル素材などの光沢があるものは避けてください。数珠は宗派に合わせたものを用意するのが望ましいですが、略式の数珠でも失礼にはあたりません。葬儀は悲しみの場ではありますが、それと同時に故人の人生を称え、見送る大切な儀式です。そこで着物をまとうことは、日本人としての矜持を示すことでもあります。私たち呉服店は、単に商品を売るだけでなく、そうした文化やマナーを次世代に伝えていく役割も担っていると考えています。もし選び方に迷われたら、遠慮なく近くの呉服店に足を運んでみてください。専門知識を持ったスタッフが、あなたの立場や年齢にふさわしい最適な1着を提案してくれるはずです。1枚の着物が持つ力を信じて、ぜひ和装での参列を検討してみてください。
呉服店主が教える喪服としての着物の選び方