原則として禁止されている葬儀での動画撮影ですが、近年、ご遺族側が主体となって、記録のために撮影を行いたいと希望するケースが、少しずつ増えてきています。これは、単なるマナー違反とは一線を画す、時代の変化と人々の価値観の多様化を反映した、新しい動きと言えるでしょう。では、ご遺族は、どのような目的で、あえて葬儀の様子を映像に残したいと考えるのでしょうか。その背景には、いくつかの切実な理由が存在します。最も大きな理由の一つが、「参列できなかった近親者との共有」です。高齢や病気、あるいは海外在住といったやむを得ない事情で、葬儀に駆けつけることができない親族は少なくありません。そうした方々に対して、後日、葬儀の様子を収めた動画を見せることで、物理的な距離を超えて、お別れの儀式を共有し、共に故人を偲ぶ機会を提供したい、というご遺族の温かい思いやりが、撮影の動機となります。次に、「故人を偲ぶための記録」として、映像を残したいという目的です。人の記憶は、時間と共にどうしても薄れていってしまいます。葬儀という、故人が最後に主役となったその日の光景、集まってくれた人々の表情、そして語られたお悔やみの言葉。それらを映像として残しておくことで、何年、何十年経った後でも、家族が集まる法事の際などに、故人の生きた証を鮮やかに思い出し、語り合うための、かけがえのないよすがとしたい、という願いが込められています。また、「子供や孫たちへ、故人の存在を伝えるため」という目的もあります。故人が亡くなった時にまだ幼かった子供や、まだ生まれていなかった孫たちに対して、将来、その子がどんな人に愛され、どのように見送られたのかを、映像を通して伝えることができます。それは、家族の歴史と命の繋がりを、次の世代へと継承していくための、貴重な記録遺産となるのです。これらの目的は、いずれも故人と残された家族への深い愛情に根差したものです。伝統的なマナーと、現代的なニーズ。その狭間で、葬儀のあり方は、少しずつ新しい形を模索し始めているのです。