日本の葬儀は、その基本的な流れこそ全国的に共通していますが、細かな風習や儀礼となると、地域によって驚くほど多様な特色が見られます。その違いが、特に顕著に表れるのが、「食事」の文化です。その土地の歴史や気候風土、そして人々の気質が、弔いの食卓に、豊かな彩りを与えています。まず、関東と関西で最も大きな違いが見られるのが、「通夜振る-舞い」のあり方です。関東では、お通夜に訪れた一般の弔問客も、儀式後に食事の席に招かれ、ご遺族と共に飲食をするのが一般的です。これは、弔問客への感謝と、故人への供養を重んじる文化の表れです。一方、関西では、お通夜に食事の席が設けられたとしても、それに着くのは親族のみで、一般の弔問客は、焼香を済ませると、香典返しの品物を受け取り、速やかに帰宅するのが通例です。これは、弔問客に余計な気を遣わせない、という合理的な考え方に基づいていると言われています。また、具体的な料理の内容にも、地域性が色濃く反映されます。例えば、北海道や東北地方の通夜振る-舞いでは、「助六寿司(いなり寿司と巻き寿司の盛り合わせ)」といった、手軽につまめて、かつ日持ちのするお寿司がよく出されます。これは、厳しい冬の寒さや、広大な土地での移動を考慮した、生活の知恵から生まれた文化かもしれません。長野県の一部では、信州名物の「おやき」や「蕎麦」が振る-舞われることがあります。また、九州地方では、「お斎(おとき)」と呼ばれる会食の席で、うどんや煮しめといった、素朴で温かい家庭料理が出されることもあり、地域の共同体の温かさを感じさせます。浄土真宗の門徒が多い北陸地方では、精進料理の伝統が今なお色濃く残っており、法要の際の食事を非常に大切にする文化があります。これらの違いは、どちらが正しくて、どちらが間違っているというものでは、決してありません。それぞれの土地の人々が、長い年月をかけて育んできた、故人を悼み、残された者を慰めるための、最もふさわしいと信じる「祈りの形」なのです。その多様性に触れることは、日本の文化の奥深さを知る、またとない機会となるでしょう。
お寿司?うどん?ところ変われば品変わる、日本の葬儀の食文化