大切な家族を亡くし、深い悲しみに沈む間もなく、ご遺族、特に喪主は、葬儀全体を滞りなく進めるための、無数の決断を下さなければなりません。その中でも、特に頭を悩ませるのが、「食事の手配」です。通夜振る-舞いや精進落としの食事は、弔問客や親族への感謝を形にする、非常に重要な要素ですが、その準備には、様々な困難が伴います。最も難しいのが、「人数の予測」です。特に、お通夜にどれくらいの弔問客が訪れるかは、正確に予測することがほぼ不可能です。少なすぎては失礼にあたり、多すぎれば無駄が出てしまう。このジレンマに、多くのご遺族が直面します。そのため、葬儀社の経験豊富な担当者とよく相談し、故人の交友関係や社会的地位などを考慮して、大まかな人数を想定し、少し余裕を持たせた量を発注するのが一般的です。最近では、急な人数の増減にも対応できるよう、オードブルやサンドイッチ、寿司といった、調整のしやすい大皿料理が通夜振る舞いの主流となっています。また、余ってしまった場合に備えて、持ち帰り用のパックを用意してくれる葬儀社もあります。次に、「メニューの選び方」です。通夜振る舞いでは、老若男女、様々な方が口にすることを想定し、和洋中を織り交ぜた、誰の口にも合いやすいメニューを選ぶ配慮が必要です。一方、精進落としは、親族中心の席ですので、落ち着いた雰囲気でいただける、懐石料理や仕出し弁当などが選ばれることが多いです。参列者の中に、アレルギーを持つ方や、宗教上の理由で食べられないものがある方がいないか、事前に確認できると、より丁寧な対応となります。そして、「費用」の問題です。食事にかかる費用は、一人当たりの単価×人数で計算され、葬儀費用全体の中で、決して小さくない割合を占めます。見積もりの段階で、どのプランに、どの程度の品質の食事が、何人分含まれているのかを、細かく確認することが重要です。この煩雑で、精神的にも負担の大きい食事の手配は、ご遺族が故人のために果たす、最後の、そして最も温かい「おもてなし」の務めなのです。