葬儀・告別式、そして火葬という、一連の葬送儀礼を滞りなく終えた後、ご遺族が、僧侶や特に親しかった親族、手伝ってくださった方々を招いて開く会食の席を「精進落とし(しょうじんおとし)」と呼びます。この食事の席は、通夜振る舞いとは異なり、葬儀という大きな行事を締めくくり、日常へと戻るための、明確な「区切り」としての意味合いを持つ、重要な宴です。その由来は、仏教の教えに深く根差しています。本来、近親者を亡くした遺族は、四十九日の忌明けまでの間、「精進期間(しょうじんきかん)」として、肉や魚といった殺生を連想させる食べ物を断ち、飲酒を控え、身を慎むという慣習がありました。そして、忌明けの法要を終えた後、この精進の期間を終え、通常の食事に戻るしるしとして設けられたのが、この「精進落とし」の宴だったのです。しかし、現代では、四十九日を待たずに、葬儀当日の火葬後に、この精進落としを行うのが一般的となりました。その意味合いも少し変化し、葬儀が無事に終わったことへの安堵と、儀式を支えてくれた僧侶や親族への感謝と労いを伝える、打ち上げのような性格を帯びるようになっています。精進落としの流れは、概ね決まっています。まず、会食の席に着席した後、喪主または親族の代表者が、参列者への挨拶を行います。そこでは、葬儀が無事に終了したことへの感謝と、故人が生前お世話になったことへの御礼が述べられます。挨拶の後、「献杯(けんぱい)」の発声で会食が始まります。献杯の音頭は、親族の代表者や、故人と特に縁の深かった友人などにあらかじめ依頼しておくのが一般的です。会食中は、故人の思い出話を語り合いながら、穏やかな時間を過ごします。そして、宴がお開きになる頃、再び喪主が結びの挨拶を行い、参列者への重ねての感謝と、今後の変わらぬ支援をお願いする言葉で締めくくります。この一連の流れを経て、ご遺族は、葬儀という非日常から、故人との思い出を胸に、新たな日常へと、静かに一歩を踏み出していくのです。
区切りと感謝の宴、精進落としの由来と流れ